
こんにちは、カップヨーグルト研究会・向井智香(むかいちか)です。
前回の<定義編>で始まったヨーグルトの基礎知識シリーズ。
今回は<製造編>と題して、プレーンヨーグルトの製造工程をご紹介します。
それぞれの作業を細かく掘り下げることで、プレーンにも驚くほどのバリエーションがあることをお伝えできればと思います。
今回も難しい言葉が多いですが、「色々あるんだなぁ」ぐらいに読み流しながらお楽しみくださいませ。
集乳
生乳(※)を工場に集め、濾過して不純物を取り除きます。 (※搾ったままのお乳のことを生乳、殺菌して飲める状態にしたものを牛乳といいます)
生乳は鮮度が大切なので、あまり長距離移動することはなく、近隣地域内の牧場で搾られたものを集乳することがほとんどです。
集乳車から工場内のタンクへ直接チューブをつなぎ、なるべく空気に触れないままに生乳を移し変えます。(役割を終えた洗浄中の写真しか手元になかったので分かりづらいですね、ごめんなさい!)
また、一般的には複数の牧場から集めた生乳をミックスしますが、中には自社牧場で搾った生乳のみに限定されるメーカーさんも。
自社牧場系のおもしろいところは、生乳に特徴を出せることです。
ジャージー種・ガーンジィ種など牛の品種を限定したもの、放牧・非遺伝子組み換え飼料使用・シリカ農法など育成環境にこだわりを持ったものなどがその一例です。
生乳はそのまま使用されることもあれば、商品の味を一定に保つために成分調整が行われることもあります。
なお、生乳は一切使用せず、粉乳やクリームなどの乳製品のみが原料とされることもあります。風味は劣りますが、大量生産やコストダウン、味の安定性、生産量の調整の自由度など様々なメリットがあり、家計の強い味方です。
生乳はほぼ間違いなく国産ですが、乳製品は輸入のものも多く使われています。
ヨーグルトを購入される際は、原材料は「生乳」か「乳製品」か、牛の品種や育成環境についてのアピールはあるかなど、ぜひパッケージを観察してみてください。
均質化(ホモジナイズ)
あまり知られていませんが、市場に出回っている牛乳やヨーグルトのほとんどは、均質化(ホモジナイズ)という加工が施されています。
搾ったままのお乳は、静置しておくと脂肪分が分離して浮かび上がり、上部にクリーム層ができます。 この分離を防ぐために脂肪球を砕き、小さく同じサイズに揃える作業を行います。
これが「均質化(ホモジナイズ)」です。
実に9割以上のヨーグルトがこの工程を経ていますが、ごくまれに、均質化をしていない商品も存在します。 それらは「ノンホモ」と呼ばれ、生乳本来の味わいを感じたり、あえて分離したクリーム層を楽しんだりするものとして愛されています。
ノンホモヨーグルト。スプーンですくっている箇所、上部に色や質感の異なるクリーム層ができています。
ノンホモヨーグルトは一般のスーパーやコンビニではなかなかお目にかかれませんが、高級スーパーやアンテナショップ、お取り寄せなどで出会うことができます。
ぜひ「ノンホモ」や「クリーム層」などのキーワードで探してみてください。
殺菌
生乳を加熱し、人間にとって有害な微生物を死滅させます。加熱の温度・時間・方法によって複数の殺菌方法があり、下記の3つに大別できます。
(1)低温保持殺菌法(LTLT法:Low Temperature Long Time)
低温保持殺菌法 – 63~65℃ / 30分
連続式低温殺菌法 – 65~68℃ / 30分以上
(2)高温保持殺菌法(HTLT/HTST法:High Temperature Long/Short Time)
高温保持殺菌法 – 75℃以上 / 15分以上
高温短時間殺菌法 – 72℃以上 / 15秒以上
(3)超高温瞬間殺菌法(UHT法:Ultra High Temperature)
超高温瞬間殺菌法 – 120~150℃ / 2~3秒
ご覧のとおり、温度が高くなるにつれて必要な時間は短くなります。
(3)は最も効率が良く、(1)に比べて1万倍もの殺菌温度があるため、日本の牛乳の約9割で導入されています。
ただし、コストダウンや賞味期限が長く設定できるなどのメリットがある反面、加熱により乳中のたんぱく質が変性され、風味が変化するとの考え方もあります。
そこで一部の商品に導入されているのが(1)や(2)の殺菌法です。
これら100℃以下の殺菌法は「パスチャライズ」とも呼ばれ、全ての菌を殺菌するのではなく、人間が飲んでも無害な程度に滅菌する方法です。
生乳本来の味わいが楽しめると重宝されていますが、手間や時間がかかるため大量生産には向かず、賞味期限も短くなるほか、乳酸菌の働きと干渉する菌(人間には無害)が残ってしまうこともあり、ヨーグルトに用いられるのは大変レアな殺菌法です。
これもごく稀にパッケージにアピールされていることがあるので、店頭で見かけたらぜひ入手してみてください。
乳酸菌添加
さて、いよいよヨーグルトらしい工程です!
不純物の除去と殺菌が完了した原料乳は、体温ほどに冷まされ、乳酸菌が添加されます。
乳酸菌はステンレス製のタンクの中で添加されます。生乳は管を通ってタンク間を移動するので、ほとんど空気に触れるタイミングがありません。
発酵の種として添加される菌は「種菌」「スターター」などと呼ばれます。
前回の<定義編>でもご説明したとおり、伝統的なヨーグルトはブルガリア菌とサーモフィラス菌をスターターとしますが、現代の日本で製造されているヨーグルトではさらにビフィズス菌やアシドフィルス菌、クレモリス菌、ラクティス菌など多種多様な菌が使用されています。
菌は互いに助け合って発酵する性質があるため、基本的には複数種をセットで用います。
なお、これらの菌は自社保有されているもののほか、業務用乳酸菌メーカーから仕入れたもの、大学などの研究機関から提供を受けたもの、海外から空輸したものなど、出どころは様々です。
菌の種類はパッケージに明記されていることも多いので、今回ご紹介している工程の中で最も意識されている方が多いフェーズかもしれませんね。
充填
意外に思われる方も多いのですが、乳酸菌が添加された原料乳は液状のまま即パッケージに注ぎ込まれます。パッケージの中で乳酸菌が働いてヨーグルトになるのです。
よく考えてみれば、開封するとフラットに凝固しているヨーグルト。
タンクで発酵させてからパッケージに詰めるのでは、この硬く美しい表面は実現できませんね。
ただしこれは「後発酵(あとはっこう)」と呼ばれる、プレーンヨーグルト特有の作り方。
味付きのヨーグルトは「前発酵(まえはっこう)」と呼ばれ、先にタンクで発酵させ、ヨーグルトになってから甘味料、香料、フルーツなどをミックスし、容器に充填されるため、次の工程と順序が入れ替わります。
また、プレーンでもごく稀に「前発酵」を行っている商品もあります。
タンクで発酵させ、よく攪拌(かき混ぜること)してから容器に注ぎ込むことで、凝固がほぐれ、キメが細かくなめらかな質感になります。
実はこれ、飲むヨーグルトで使われている製法。
なので極端なものでは、器に流し移せるぐらい柔らかい液体状になった商品もあります。
発酵
さて、最後の工程です。
先にパッケージに充填された「後発酵」タイプのものは、パッケージごと適温に保たれ、内部で発酵させます。
スターターは原料乳に含まれる乳糖を代謝して乳酸を生み出しつつ、増殖を繰り返します。生きた乳酸菌・ビフィズス菌または酵母が1ml中1,000万個以上になれば、「発酵乳」の菌数の条件をクリアします。
発酵温度は40〜45℃、時間は4〜6時間程度が一般的ですが、中には低温で時間をかけて発酵させる「低温長時間発酵」が用いられることも。ゆっくりと発酵させることで酸味が出づらくなるほか、なめらか、もっちりなどの質感にも影響するそうです。
33~35°Cで20~30時間発酵させるメーカーさんのヨーグルト。乳酸菌の特性もありますが、もっちりとした独特の質感に仕上がっており、酸味も控えめです。
わたしがヒアリングをさせていただいたメーカーさんでは、「低温長時間発酵」に要する時間は9〜18時間が主流でしたが、中には数日かけて発酵させる商品も!
お値段の差にも納得でした。
「低温長時間発酵」もパッケージに書かれていることが多いので、酸味控えめのプレーンヨーグルトをお探しの方はぜひチェックしてみてください。
そうして目的のレベルまで発酵させたヨーグルトは、冷却して乳酸菌の働きを抑制した状態で出荷され、わたしたちの手元に届きます。
なお、冷蔵保存中も少しずつ発酵は進むので、賞味期限が近づくにつれて風味が変化する商品も多いです。ぜひお好みのタイミングを探してみてください。
まとめ
いかがでしたか。原料乳の質、均質化の有無、殺菌温度・時間、乳酸菌の種類、充填と発酵の順序、発酵温度・時間など、プレーンヨーグルトの製造工程には、たくさんの選択肢があります。
そのため、一見シンプルなプレーンヨーグルトでも、商品ごとに風味は驚くほど異なります。
気軽に購入できるようコストダウンの努力が重ねられたものから、安心・安全にこだわり抜いたもの、風味や食感の良さが極められたものなど、パッケージの表記を参考に、ぜひお好みに合わせて選んでみてください。
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