「孤という文字は、自分で実らせると表す。人に媚びず、自分自身をよく理解した上で、ひとりでいる時間を大切に生きる人。皆と同じように合わせて生きたい人より、不器用で難しい人生」
(引用:「孤独という名の生き方」/著・家田荘子)
このemotionalなフレーズは、日本にてシェーブルチーズを製造する数少ない生産者を連想する。
シェーブルチーズとは、山羊(ヤギ)のチーズを指す。組織が柔らかく、山羊特有の強い個性を醸しだす。
成分として
- カプロン酸
- カプリル酸
- カプリン酸
などの中鎖脂肪酸が山羊乳に多く含まれるため、独特の酸っぱい風味が特徴である。
しかし、酸っぱいのは風味だけではない。
高級で美味しい欧州チーズは、今後は法改正で関税が下がり日本人にも手に取りやすい価格で購入できる時代が到来するため、生産者は酸っぱい表情を浮かべる。
山羊のミルクもチーズも、現代の日本人にとっては馴染みが少なく国内での販売は容易ではなくなった。
それでも不器用で難しい人生を選択した、国産の山羊チーズ生産者を訪ねてみた。
Not only information but also emotion.
目次
米子市・メイちゃん農場のシェーブルチーズ
1社目の舞台は鳥取県・米子市。
商工会の専門家講師派遣により出逢った山羊チーズの生産者だ。
その名も、「メイちゃん農場」。
メイちゃん農場では、日本海が一望できる場所に位置しており、海の恵みであるミネラルが多く含む草花を山羊に食べさせている。
ヤギフレンドリーな環境と工夫
毎朝晩、メイちゃん農場では
- 乳の衛生面
- ヤギの体調管理等
を考慮し、搾乳手による搾乳を行う。
「たいてい搾乳という作業は、専用の機械を使い、搾られた乳は専用ホースを通って送られるため、毎回、使用後には強力な洗浄液が使われるので控えている。またヤギにとって機械での搾乳は過搾乳となり乳房炎などにかかる原因ともなる」
とメイちゃん農場代表の大下さんは話す。
そして、メイちゃん農場の現場ではヤギ特有のクセのある匂いが圧倒的に少ないと感じる。
それは、ヤギにストレスを与えないよう頭数を制限して、各頭をロープに繋いで十分なスペースを確保するようなストレスフリーな環境を保つ点に起因するようだ。
小屋の中でも性格の合うヤギと合わないヤギを分けているそうで…。人間界でも苦手な人と一緒に仕事するとパフォーマンスがガクンと落ちる経験があるので、よく理解できた。
酵母菌を用いたオリジナリティー
写真は、代表の大下さん。
酸凝固法を使い、ジオトリカムという酵母菌を吹きかけて熟成チーズを作る。
濃厚なチーズの風味、爽やかな酸味の両者を保つ技術が素晴らしい。日本海の藻塩が舌の上を滑らかに走る。後味はほのかに甘いヤギ乳の香りが広がる。
2つの熟成期間が愉しめるシェーヴルチーズ
「潮騒」は熟成期間が10日~2週間。
ワインと一緒にグルテンフリーブレッドとハチミツやデーツシロップと合わせる、またはドライイチジクやナッツと共にとサラダに合わせて、楽しめそうだ。
「凪」は、熟成期間が20日~1ヵ月以上。
熟成が進めば進むほど濃厚になるが、黒胡椒、山椒などを加えて脂身の乗ったサーモン、熟成肉やジビエ肉などとも相性が良い。
苛性ソーダ不使用の「ぷるぷる山羊乳石鹸」
ヤギ乳は、なにも食用だけにあらず。
- 手荒れ
- 肌荒れ
- アトピー
- 乾燥肌
にお悩みの方には低刺激スキンケアとして、注目されている。
メイちゃん農場では、手搾乳したヤギ乳を低温殺菌して、ぷるぷる山羊乳石鹸を開発した。
ヤギ乳の脂肪球はウシの脂肪球と比較した場合に、サイズが非常に小さいため、高い浸透・吸収・保湿力が特徴であるという。
もちろん苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)は使用していない。
お肌に低刺激な材料を採用したことで、松江赤十字病院でも販売されている。
中標津町・乾牧場の山羊ミルク
最後に紹介するのは北海道の東部、知床半島の付け根にある標津群中標津町にある「乾牧場」。
平成15年から、山羊ミルク「しれとこやぎミルク」を販売し、平成30年にチーズ製造をスタートさせた。
合計160頭のヤギを飼育する乾さんは、
「牛乳はαカゼインが主成分であるが、ヤギ乳はヒトの母乳と同じβカゼインが多く含まれてるため、かつては母乳の代替乳としてヤギミルクが使われていた。」
と話してくれた。
乾牧場のパンフレットを読む限り、タウリンが牛乳の20倍。
CLA(発がんや動脈硬化を抑える効果が期待されている)、ビタミン、カルシウムも当然含まれ、アフリカではHIV患者にも効果があると言われているそうだ。
商品情報
①「メイちゃん農場のシェーブルチーズ」/メイちゃん農場(鳥取県)
②「しれとこヤギミルク」、「山羊の夢」 /乾牧場(北海道)※こちらは、URLはありません。
編集後記
大学生の頃、都内のワイン教室でチーズ・プロフェッショナル資格のクラスで、アシスタントを務めていたことがある。
きっかけは、1本の電話。
「卒業旅行で欧州を回り撮りためたチーズの写真の名前が分からず、教えてもらえないか」と図々しいお願いをした。
すると、私の暑苦しいチーズ愛が伝わったのか、講師の方から「大学生には30万円弱の投資って、厳しいでしょう?それなら…」と短期間のチーズカットのアシスタントになった。
おかげでチーズを勉強する機会に恵まれて感謝している。
皆さんも、素直な「好き」を大切に。