【ソンユガンのブドウ栽培】サステナブルなブドウ栽培を行う決心

【ソンユガンのブドウ栽培】サステナブルなブドウ栽培を行う決心

前回までの記事で、「サステナブルなブドウ栽培とは?」について己の考えを書き綴ってきた。

 

私の答えは、「その土地に合った病気に強い品種(作物)を育てることである」と述べ、その理由を植物の生態から農業の本質、そして日本における葡萄栽培の歴史および葡萄品種の特性という観点から述べた。

 

長野へ移住してちょうど4年、2019年5月にブドウを植樹してから4シーズンぶどう畑にて様々な栽培検証を実際に行い得られた結果を元に、そこに存在する理想と現実の大きなギャップ、ここ日本に存在する変える事のできない気候、それら全てを考慮して出した答えでもある。

 

日本において高品質なワイン用ブドウを栽培する事は、決して容易な事ではない。

 

 

ブドウ栽培地

 

 

私がワイン用ブドウを栽培する地は、長野県長野市の北部「浅川」という地区にあり、そこは長野駅から北へ約10km、飯綱高原の入口にあたる中山間地域で、自然豊か、春の美しい野花、多くの山菜、秋の紅葉、冬にはスキー、温泉と一年通して魅力ある場所である。

そんな浅川のとある森の中に存在する約2haの土地。

標高630m、南向き、若干の傾斜で日当りは良く、優しい風が通り抜ける。周りは木々に囲まれ、山の中に静かに佇み、鳥達の歌声だけが聞こえてくるブドウ畑。

 

 

長野県の気候

長野県は、日本国内のブドウ栽培地の中では恵まれた気候を持っている。   

年間日照時間は全国平均の1978時間を上回る2028時間、年間降水量が一番多い県は高知県で3659mm、二位は鹿児島県で2834mm、三位は宮崎県で2732mmに対して、長野県は902mmという少なさ、海岸から遠く離れた内陸に位置していることから、全県的に内陸特有の気候で、昼夜の温度差が大きいという特徴があり、「日本の屋根」と呼ばれるだけ周囲を3,000m級の山々に囲まれているばかりではなく、県全域の標高が高いことでも知られている。

 

しかし、これら多くのアドバンテージを持ってしても、それは所詮日本国内での話しであって、世界的に見れば、決してブドウ栽培に適した気候とは言えないのが事実である。

 

 

ワイン用ブドウ栽培家の思い

 

 

長野へ来てから多くの勉強会(講習会)へ参加した。長野県主催、長野市主催、高山村主催、栽培家主催など、事実、長野県には勉強熱心な新規ブドウ栽培家が多く存在し、皆切磋琢磨して品質向上に努めている。

しかし皆,口を揃えて言う。「ブドウ栽培は大変だ」と。

何十人とベテランの農家さんに話しを聞きに行ったが、皆さん口を揃えて言う。「大変な世界に入ってきたな」と。

もちろん彼らはそんな事を言いながら、情熱というエネルギーを元に一生懸命に畑仕事を行っているのだが、いまだに「ブドウ栽培は楽しい」と言った人には出逢ったことはない。

当初は分からなかった。なぜ皆口を合わせて「作業が辛い」と言うのか。

しかし今は分かる。そして自分も同じ事を思う。「なんて辛い作業なのだ」と。

 

 

勉強会でのテーマ

出来る限り参加したブドウ栽培の勉強会であったが、その内容はいつでも「病虫害や農薬について」で(※時期によっては仕立てや剪定などについての講習が多い)、栽培家が一番思い悩んでいる事柄は常に「ブドウの病気」である。

日本で懸念される病気の中でも特に「ベト病、晩腐病、灰色カビ病」が非常に危険視されている。全て日本の湿潤な気候を原因とするカビ系の病気だ。

 

5月の萌芽前から、その病気への対処は始まる。休眠期防除と呼ばれる農薬散布で、ブドウ達が芽吹く前に、ブドウ樹上で越冬する病原菌を殺菌する作業である(多くの農家が行っている)。しかし、これで全ての菌を殺菌できるわけではなく、収穫まで菌との戦いは続く。

芽が出れば、その新芽を狙って虫が食害を開始し、葉が出ればそれを狙って虫や菌が動き出す。すぐに梅雨が始まり、病気のリスクが高まると同時に、ブドウたちはたっぷりの水を得て大きく成長を始める。同じく雑草達も成長を初めて草刈りが追いつかなくなり、ブドウの葉は生い茂り密集して湿度が上がり、さらに病気が出やすい環境になっていく。

摘心すれば副梢が伸び、誘引作業が永遠に繰り返される中、生育期間中の農薬散布は繰り返し行わなければならない。日に出前の薄暗い早朝から始める散布作業で体は疲弊し、病気拡散の原因となる雨を防ぐために数千〜数万以上ブドウ一房一房に傘をかけ(畝にそって雨よけビニールをかける園も多い)、ブドウの生育と天気予報を毎日確認して散布のタイミングを間違わないよう、毎日「病気のリスク」に怯えながら過ごす収穫までの日々。

「焦り」と「怯え」。これらは決して楽しい作業ではない。しかし、これが一般的なワインブドウを栽培している者の状況である。

(中には楽しく作業している人もいるかもしれない)

 

私も、高品質なワインを造りたいという夢と共に植え育て始めたブドウ樹ではあったが、現実はそう甘くはなかった。樹が成長するにつれて作業量は日に日に増加し、ついに楽しさよりも辛さが精神的に上回ってしまった。

 

この原因は何なのだろうか?

その答えは一つ。前回記事で詳しく述べた「日本の気候に合わないヨーロッパ系ブドウを日本で育てる」からである。

 

 

約40種類のブドウ品種栽培

 

 

私は、自身のブドウ畑で約40種類のブドウ品種を栽培している。

ヨーロッパ系、アメリカ系、日本固有、交配種など、国内で入手可能な幅広い品種のブドウを試験的に多く栽培している。

ここまで多くの品種を栽培していると、それぞれ品種の違いがはっきりと見えるようになり、非常に興味深い。病気に強い弱い(耐病性)、生育スピードが早い遅い・育ち方(樹勢)、萌芽開花の時期、葉っぱの量、房、果実の付き方などなど。

 

そして、4シーズンそれらのブドウを栽培して確信した事実がある。それはやはり、ヨーロッパ系のブドウ品種は病気に弱いという事。それらを農薬無しで栽培する事はほぼ不可能に近いということ。そして、病気に弱ければ弱いほど、畑での作業量は増し、栽培者の肉体的・精神的負担が増すという事であった。もちろん農薬の散布量・回数を増やすという事は自然への負荷も増すという事である。

(ヨーロッパ系ブドウを減農薬で栽培する情熱的な栽培家も存在する)

 

私にとって約40品種のブドウを栽培するという行為は非常に大事なことであった。

畑の土・気候に適し(生育および収穫期の熟度、酸度)且つ病気に強い品種(耐病性)を見定めるためには必要不可欠なことであると考えていたからだ。

多くの品種を挿し木で植樹した時には、周りから非難の声も多数あった。

「理解できない」「植え替えの労力負担が大きすぎる」「樹齢がもったいない」「栽培管理が複雑になり大変だ」など。

確かに品種ごとに生育や病気の状況を見ながら対処を変えるのは非常に非効率で難しいことであるし、せっかく一度植えた苗をすべて植え替えるのは途方もない作業である。しかし、これだけ多種のブドウを栽培したおかげで、私の畑においてベストなブドウ品種を見定めることができた。(病気に強く且つ理想の成熟を迎える品種)

 

私の畑で唯一、農薬無しで栽培が可能だった品種、それは「山ソービニヨン」という日本生まれの品種で、日本の地葡萄ヤマブドウとヨーロッパの王様カベルネ・ソービニヨンの交配品種である。

(「マスカット・ベリーA」という日本生まれの交配品種も良い結果が出た)

病気にかかりずらく(葉っぱが強い)、病気になっても耐える力があり、果実は小粒で色濃く、糖度もあり酸味も強い。

高品質なワインを造るに必要な要素を多く備えている。

(実際は酸味の強さを嫌う人も多く存在する)

 

 

自然からの学び

 

 

私は長野へ来てから4年間、自給自足を目指し、自然から多くのことを学び生活してきた。そこで学んだことは「自然は恵みに溢れている」(自然に生きれば多くの幸せが既にある)ということであり、それは同時に「自然に背けば背くほど苦労する」ということでもあった。

己の「願望」や「欲望」を無くせば無くすほど生活は豊かになり、それが増せば増すほどに苦しくなる。

地球に存在する生き物の中で唯一苦悩する生き物「人間」

その苦悩の原因はほとんど自らつくり出しているんだよと自然が語りかける。

(世の中には生まれた環境によって苦しんでる人も多くいるが..)

 

 

「自然」に寄り添った農業

 

 

なるべく「自然」に寄り添った農業=自然に合った品種を栽培することは、同時に栽培家と自然への負担を軽減することに繫がる。

これこそが「サステナブルなブドウ栽培」と言えるのではないだろうか。

 

私は決心した。

2ヘクタールの土地に植えた約6500本(約40種)のブドウ達をこれからほぼ全て引き抜き、私の畑において農薬を極力必要としないで栽培可能な品種(山ソ—ビニヨンとマスカット・ベリ—A)に植え替えを行っていくことを。

自然に負荷をかけずに栽培できるブドウ品種を、栽培家が楽しんで育てる。

そして、その育てたブドウを使用して、でどこまで高品質なワインを醸すことができるか?

これが私の考える「日本でブドウを栽培する意義」である。

 

4年経ち、ゼロへ逆戻り。

ようやくスタートである!!

 

 

あわせて読みたい!ブドウ栽培の世界

 

ワインは特別なお酒。ブドウ栽培に込めた熱い想い

ソン ユガンのワイン造りへの挑戦!

 

CONTACT

フードビジネスに関するお悩みは、お気軽にご相談ください。