日本茶の2019年を振り返る~次世代のスタンダード“萎凋香緑茶”~

日本茶の2019年を振り返る~次世代のスタンダード“萎凋香緑茶”~

紅白の出場歌手が発表され、流行語大賞の候補がノミネートされ、一年を振り返る時期になりました。

 

vol.8で、2019年にフレーバーの日本茶が台頭してきたのを「日本茶の大転換期到来?!」として、香料或いはハーブなどで着香した日本茶について書かせていただきました。

 

が、じつは、着香せずに香る日本茶というのがあります!

 

それは「萎凋香緑茶」。

“いちょうかりょくちゃ”と読みます。

 

知っている人はかなりのお茶好きさんですね。

 

この萎凋香緑茶こそが次世代の日本茶と私はふんでいます。

 

数年来注目してきましたが、確かな手ごたえを2019年は感じました。

 

 

 

萎凋香緑茶とは?

日本で一般的な緑茶を作るときには行わない萎凋というプロセスを踏むことで、花のような香りを発揚させたのが萎凋香緑茶です。

といっても萎凋がまずピンとこないですよね?

 

大辞林で萎凋とひくと「植物がなえしぼむこと」とあります。

 

ほうれん草とか葉野菜がしなびた状態を想像していただくのがわかりやすいかと思います。

 

日本では茶葉を摘んだら間をおかず早々に蒸すことで酸化発酵をとめるのが通常の緑茶の作り方です。

 

萎凋香緑茶は摘んだ茶葉を適切な環境下で管理して茶葉の水分を蒸発させる萎凋工程を経てから蒸しを行います。

 

長時間の萎凋を行うと烏龍茶などのように赤みのあるお茶になりますが、一晩程度に留めることで、香り高くてかつ緑のお茶になります。

 

どんな香りかというと、ふだんそんなにお茶を飲まない人なのに台湾旅行に行ったらお茶が美味しかったといって茶器セットまで買い込んで帰ってくることがありますが、台湾茶や中国茶に有るあの華やかな香りを思い浮かべていただけるといいかと思います。

 

お花のようと言われますが、ものによってはブドウのような香りがしてそれはもううっとりです。

 

 

 

なぜ香りの緑茶がいま作られているの?

台湾のお茶農家さんに研修に行って萎凋の技術を学ぶ日本の生産者さんもいます。

 

しかしながら日本でも昔はごくふつうに萎凋したお茶があったようです。

 

摘んだお茶を今のようにすぐ製造できる環境ではなかったので、筵の上で一晩おいて翌日製造したりしていたために自然と萎凋していたんですね。

 

状態が悪いとムレて、ムレ臭のするお茶になってしまいますが、適切に保管されたお茶はきっと香りがよく、昔のお茶は美味しかったとご年配の方がおっしゃる原因はこのへんにあるのではないかと考えられます。

 

戦後の高度経済成長期のもと肥料をたっぷりあげて旨味を追求したお茶がスタンダードとなり、品評会でも萎凋香は欠点とされるため、姿を消しました。

 

それが今どうして再び見直されているのか。

 

これは日本茶が明治時代の輸出作物、戦後の換金作物として扱われた時代から、時を経て今再びマーケットを海外に見据えていることと関係があります。

 

世界ではお茶といえばイコール中国茶を指しているといっても過言ではありません。

 

西欧は香り文化、日本は旨味文化、といったりしますが、中国茶のような香り高いお茶が海外では好まれる傾向にあります。

 

日本茶の旨味重視は日本独自の発展、ガラパゴス的な現象だったのでしょうね。

 

国内の消費が伸び悩み、海外に販路を求める方向性の中で、香りがよく、かつ烏龍茶や紅茶とぶつからない萎凋香緑茶が注目されるようになりました。

 

また、vol.8でも書きましたとおり、日本人の嗜好も変わってきているので、萎凋香緑茶は海外のみならず国内でも日本茶のスタンダードになる日がくるかもしれません。

 

 

 

2019年は萎凋香緑茶が豊作!

萎凋という行程はなかなかに難しいのだそうです。

 

実際、同じ生産者さんの萎凋香緑茶をいただいて、去年はかぐわしい香りがしたのに今年は弱いと感じたことがかつてありました。

 

農作物なので年によって違いがあるのは当然ですが、安定したクオリティで提供できるよう皆さんが努力を重ねてこられた成果が表れてきたようです。

 

2019年は萎凋香緑茶が豊作でした(わたし調べ)。

 

ひとつご紹介しますね。

 

埼玉県狭山市の奥富園製茶の「萎凋ふくみどり」

 

こちらは日本茶ゴールドアンバサダーにご就任いただいている埼玉県狭山市の奥富園製茶の「萎凋ふくみどり」です。

 

埼玉県狭山市の奥富園製茶の「萎凋ふくみどり」の茶葉

 

こちらが茶葉。

見たかんじはふつうの煎茶ですね。

 

埼玉県狭山市の奥富園製茶の「萎凋ふくみどり」で淹れたお茶

 

淹れても、見た目は普通の煎茶です。

 

が、立ち昇る香りに思わず目が大きくなりました。

 

甘くてちょっとデラウェアに似た香り。

 

ボディがしっかりとしていて飲みごたえもあって、美味しい~!

 

皆さんにもぜひ召し上がっていただきたい!!!

 

今はまだ萎凋香緑茶をスーパーやコンビニで見かけることはほぼありませんが、今後どんどん増え、そしてレベルもどんどん上がっていくことと思います。

 

どうぞご注目ください。

 

余談ですが、台湾の茶業は日本統治時代に発展し今に至っています。

 

教えた国にまた教えられ、感慨深いものがありますね。

 

戦後輸出から国内需要に振り切った日本茶業がまた輸出に向かっていったり。

 

巡る巡るよ、時代は巡る。

 

なんだかしみじみしちゃう。

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