無添加食品プロデューサー「井上嘉文」が提案する【東京にいながら岡山食材】のある暮らし#1

無添加食品プロデューサー「井上嘉文」が提案する【東京にいながら岡山食材】のある暮らし#1

9月某日、ようやく狼煙を上げた食のイベント「Emotional Table」。
今回は、岡山県の食材において新しい首都圏向けの販路開拓を目的とした2日連続のイベント。

タイトルは、『DISCOVER OKAYAMA IN TOKYO』

政府が掲げる『GOTO キャンペーン』において東京が対象にならなかったときに企画したもので、【東京にいながらも岡山の食材をおもいっきり楽しめる】が、コンセプト。

emotional tribeが主宰となり、グルメ愛好家、メディア、卸関係者、流通関係者、シェフ、食品業界関係者などが集まった。今回は、コロナウイルス新しい試みとして、vimeoも活用した。

そもそも弊社は、「Emotional Table」という定期的な食イベントを企画している。
その理由は、生産者の販路開拓とブランディングのアプローチとして、「実体験を共有する場の提供」が重要であると考えているからだ。

 

大量の来場者の名刺が山積となり、成約率が数%の大型の食品展示会。
そのスタイルで営業することも大切かもしれないが、その場でエモーショナルは生まれづらい。

 

ならば、生産者の食材を実際に料理人が試す環境と機会を提供してあげること。
料理人が最低限のコストで、お客様の反応を直に見て、聴けること。
そして、お客様が食材の新しい発見をして、その商品を欲しくなること。

 

この3つの同時に叶えられて、全員がwinになれる方法を考えてきた。
広告が一切なく、自然で、エモーショナルなプロセスは何か?
行きついた答えが、シェフを巻き込んだ交流イベントだった。

 

嘘がなく、ステマもない。参加者全員が、食材にアレルギーがなければ幸せになれる、リアルマーケティングである。

コロナで4月に企画したものが、すっ飛んで、5か月越しの開催である。
でも、おかけで準備や新しい試みができた。後パブ掲載として、2回に分けてご報告する。
大自然に囲まれた岡山県の食材のおいしさに、感心するばかり。
GOTOキャンペーンの行先は、岡山県も候補に入れてみてはいかがだろうか。

 

『DISCOVER OKAYAMA IN TOKYO』@すずきの

 

 

会場は、東京・本郷三丁目にある『~時々~すずきの』。

普段のコース料理は、「おうちごはん研究所」にて、らりほぅ氏が記事をまとめているので拝読してもらいたい。

この日は貸切で、満席御礼。献立の話合いも3週間前から行い、特別なオリジナルコースに。

 

猪もも肉 茗荷 梨 胡瓜 ごまだれ掛け

 

 

鈴木料理長がかつて働いていた料理屋の味をアレンジした、ごまだれ。
しゃぶしゃぶ用に作っていた創作ソースを、猪と合わせた。
この猪は、岡山県新見市の【有限会社ミナミ】の猪肉。


岡山県の中でも、積極的に都内レストランに出荷しており、飲食店からの評価もすこぶる高い。
【有限会社ミナミ】の猪もも肉を58℃で1時間ほど低温調理をして、農薬不使用栽培の茗荷と合わせた残暑を吹き飛ばす1品。

梨は、岡山県・新見市の【大原観光果樹園】の梨を店に直送して使用してもらった。
この日のテーマは岡山食材なので、果物はすべて、フルーツ王国である岡山県産。

標高450~500mの準高冷カルスト台地で昭和56年、5haの土地に桃・りんご・梨を新植してからスタートした
果樹園が、今では果物がたくさん実をつけて、観光農園にまで成長した。

梨と猪の斬新なマリアージュが、非常にすばらしくて、献立でも一際輝いていた。

 

猪ひれ肉 ビール衣揚げ 桃白和え

 

 

 

猪ヒレ肉を塩水に漬けて、塩を含ませ、乾燥。そのあとビール衣で揚げた。
もともと天ぷらの衣は、小麦粉と水でつくるものであるが、水の代わりに炭酸水で揚げると◎とされている。

それは炭酸水のミネラルが纏うことで、サクっとさせる効果があるからだそう。
鈴木料理長によると、「炭酸水は、白くなりがち。色合いも美味しそうに見せるためにビールを使った」とのこと。
なるほど、これならばご家庭でも真似しやすいかもしれない。

一方、白和えに合わせるは新見市産の桃とピオーネ。
こちらも、【大原観光果樹園】の上杉 和雄さんが、チョイスしてくれた、自信作の果物。

葡萄の中でも大変人気なピオーネ。白ごまのペースト、豆腐、塩、薄口しょうゆ、砂糖で白和えをつくる。
果物と見事までに調和。

 

 

燦々とふりそそぐ太陽、草間台地特有の昼夜の温度差、風。自然の恵みが一房、一粒、美しい果実を育てているそうだ。丹精込めて育てた果樹園だが、7月上旬から11月下旬にかけて、桃・梨・りんご狩りが楽しめ、
入園料だけで、園内の果物が食べ放題になっている。お土産の葡萄をそのままいただくもよし、家に帰って白和えでも二度愉しい。てか、取り放題の入園料 安っ!(笑)

 

平目 鱸 太刀魚

 

 

神経締めされた、鮮度のよいお魚たちが並ぶ。

お造りに向き合う姿勢は、歩んでいくキャリアや年齢で味わいが変わってくる料理だと感じる。

20代の頃は、空回りする程のやる気と体力が溢れており、自分の力で何でもできる気がして、色々なルートを巡った。どの道も舗道がされていないから歩くのが大変で、走ろうとすると何度も転んだ。

30代になると、歩きやすい踏み場所が徐々に分かってくる。自分に合う歩幅も速度も理解できてくるため、足が疲れない。だからこそ、たまには隣の泥濘に足を踏み入れたくもなる。

20代の頃は、丹念に熟成された刺身を口に運び、純米酒を愉しむ余裕なんて、サラサラなかった。
毎日の仕事と葛藤で、僕の脳みそこそ神経締めされていて、死ぬかと思った。
お酒も20代のときは、ワインしか飲めなかった。
30歳になって、刺身に合う純米酒を店主と会話しながら、他のお客様と一緒に選ぶ楽しさを覚えた。

お造りが、素直に美味しい。
これも鈴木料理長の腕と、高品質な食材と、イベントに来場いただいた方々の熱気に他ならない。
ちなみに、今夜の刺身はお任せで、鈴木料理長が産地も魚種もチョイス。
30代のゾロ目を迎える来年は、ぜひとも瀬戸内の魚で揃えて再度イベントを企画したい。

 

きんき幽庵焼

 

 

これは、贅沢な1品である。北海道産直送のきんきが香ばしき焼きあがった。
東丸、お酒、みりんを1:1;1の同割で、幽庵地をつくる。
そして、30分くらい浸してから焼き上げる。

きんきと金目鯛は、よく間違えられる魚である。
「名探偵コナン」(著・青山剛昌)のキャラクター工藤新一と服部平次くらい、よく似ていると思う。

きんきの、正式名は「きちじ(喜知次)」。そして、喜知次はカサゴ科の海魚である。主な産地は北海道や東北地方であり、よく見ると金目鯛よりも淡い朱色で、目が透き通っている。

一方で、鮮やかな赤皮をもつ夜行性の深海魚が、金目鯛。主な産地は駿河湾~相模湾だから関東である。

また、金目鯛はマダイの代わりとして祝いの席に用いられるが、タイとは血のつながりはない。
真鯛とは対照的に脂肪分が多い。単純に、鯛と同じく常食する小エビの殻に含まれる色素による赤色が魔よけの色であるため、祝い事の魚になっただけ。

日本文化が魚の分別を難しくしているのかもしれない。

 

猪つみれ きのこ煮

 

 

つみれ団子は、少しユニークな作り方が勉強になった。
ミンチ肉を半分は通常どおり、火入れをする。そしてもう半分は酒、水で火入れをしてバラバラにほぐして、冷ます。
この丁寧な分担された肉の下処理が、この肉団子の美味しさをつくっているのだろうか。
そのあと、葱、生姜、塩、薄口しょうゆ、全卵を混ぜて肉団子を生成する。

この料理が最もジビエらしさが前に出ており、食べると、猪の香りが湯気と一緒に立ちこめる。この猪のミンチ肉は11月上旬に通常価格の20%割引されるYouTubeキャンペーンを開催するので、この機会に是非試してほしい。現在は、肩ロース肉が20%OFFとなっている。


あばら骨で出汁をとったスープで煮ることで、猪の出汁がスープの瀬を渡り溶けていく。
逢瀬を誓ったのは、生きくらげ、ロジール茸、あわびだけ、平茸の4種類。
4種のきのこの共存で、旨味成分を掛け合わせた。

生きくらげは、岡山県新見市の【株式会社H・Sアグリソーラー】のもの。

太陽光発電を利用して農作物を生産する(株)H・Sアグリソーラーは、ハウスで菌床栽培した肉厚シイタケ「ジュ~シィたけ」を出荷、現在は岡山県各地のスーパーで販売している会社。この季節限定、9月末までは生きくらげを出荷できるため、使わせていただいた。プリプリの食感と鮮度がずば抜けている。これは育成方法によるものだろう。

そして、低カロリーな食材である生きくらげなので、女性からも大好評だった。次の食事でも、その美しさを発揮する。

 

猪 肩ロース 五目飯

 

 

【株式会社H・Sアグリソーラー】の生きくらげが、これでもかと入った炊き込みご飯。
間違いなく、この炊き込みご飯の主役は生きくらげだろう。
生きくらげは繊維質が豊富だから、血糖値の上昇を抑制する。〆のごはんに抱える罪悪感が薄れてバランスが良い。

きくらげは一度炊いて、味を含ませている。
1回水で素茹でをしてから、出汁で炊くという2度作業。
こちらに、猪の肩ロース、脂を小角切りして、ごはんと土鍋で炊き上げる。
山の幸の出汁がごはんに染み込んで、人参と他の野菜のアクセントが、すこぶる美味しい。

この店のスペシャリテは炊き込みご飯である。1日限定では勿体ないくらいだ。

 

食事は欲張らずに、おむすびにして、翌日もDISCOVER。

 

 

和食の醍醐味は、このお土産だ。お腹いっぱいならば、無理して食べずに握ってもらうことをオススメしたい。次の日に、楽しかったイベントの余韻も頬張り、幸せになれるからだ。

と言いつつ、美味しすぎてお替りをしてしまった。猪の五目飯は初めて食べたが、まったく獣臭さがない。有限会社ミナミの猪肉の素晴らしさがよく分かる1品だった。

 

編集後記

 

 

ビタミンカラーとは、檸檬やオレンジに代表される柑橘類に見られる色味を指す。
総じてビタミンCが多く含まれることに由来して、そう呼ばれる。色彩心理学の世界では、

  • 黄色:明るさ、希望の印象を与える→ 運動神経や脳を活性化、集中力UP
  • オレンジ:楽天的で陽気の印象を与える→消化、新陳代謝、血管や自律神経の刺激

としている。確かに西洋医学でも、症状別に対応する色素をもつ野菜を摂ることが推奨されている。鮮やかな野菜や果物の色味は、元気になれることは間違いない。
感染症の影響、不況が煽り、沈みがちな心にビタミンカラーは大いに役立つ処方だろう。

ただ、私は色盲になったかと勘違いしたくらい、色気のない4か月だった。
それは、定期的に開催している食のリアルイベントが、相次いでキャンセルしたからだ。
イベントで見知らぬ人と出会うことは、私にとって“ビタミンカラー”そのものだった。
コロナウイルス感染症は、人から活力となる色までも奪ってしまうから恐ろしい。

盃を交わし、見知らぬ客同士が奏でる笑い声の連鎖。
緊張と歓びという絵具が入り混じったパレットのような面持ちの生産者。
食材の本質を見極めて、素敵な料理へと昇華させる料理人の息遣い。

「形に残るものが全てじゃないように」
ヨルシカさんの大ヒットソング『花の亡霊』の歌詞が思い浮かぶ。
見えるものがすべてが色じゃない。

イベントの醍醐味とは、五感で楽しめる一夜限りの彩りを創れることにある。


「すずきの」鈴木料理長、初日の「DISCOVER OKAYAMA IN TOKYO」に集まってくださった皆さん、どうも有難うございました。この記事に代えて、感謝の言葉をお送りします。

今後も楽しい時間を共有できるイベントを開催していきますので、ご贔屓に、宜しくお願い致します。

 

P.S.
2日目の『桃栗』に足を運べずに残念がっていた方、記事は10月30日にアップされる予定なので、ご期待ください!

 

井上 嘉文

CONTACT

フードビジネスに関するお悩みは、お気軽にご相談ください。