感動…!四ツ谷の名店、ペアリングイベント報告

感動…!四ツ谷の名店、ペアリングイベント報告

COVID-19の蔓延で全国の料理人たちは、テイクアウトやECでの販売計画に舵取りを余儀なくされた。今もなお、苦境と闘う日々を過ごす人も多いことだろう。

しかし、料理人にとって、ホームは、あくまでお店である。
客も料理人も、人の触れ合いが大切であることに、
この数年間で、同時に気がついたのではないだろうか。

レストランの真の醍醐味とは、料理だけにあらず。
その日に織りなすコミュニケーションである。
料理人たちの弛まない努力の結晶は、いつだって、
原点の「現場」にあるのではいないだろうか。

だからこそ、尊敬する料理人同士が協奏する企画は、
より一層に、心が弾むのである。
料理の満足感とは、美味しいだけではない。
きっと誰かの想いも一緒にいただいている。

生産者、酒屋、卸業者、家主など…
すべてのご縁が、今日の1皿に詰めこまれている。
だから、外食が楽しい。
食事の楽しみ方は、感受性ひとつで、劇的に変わるものだろう。

さて、では私には何ができるのだろうか。
せめて、料理人たちの想いを伝えられないだろうか。
記事を書くことは、私からの恩返しだ。


ハナミズキのように、今宵、訪れたお店が、
これから先も百年続きますように。

 

甲殻類専門店「うぶか」×ラクトオボベジタリアン「polyphony」

本日は、数か月先まで予約が困難な、四谷三丁目の甲殻類専門店『うぶか』さまと、肉・魚介類は使用せず、野菜・乳製品・卵のみの料理を提供するラクト・オボ・ベジタリアンの『polyphony』さまのコラボレーションイベントにお邪魔した。(写真左から:『うぶか』加藤店主、『polyphony』竹口店主)

 

仲良しタッグがホームの地で協奏する

 

四谷三丁目の甲殻類専門店「うぶか」は、毎月、日本酒のラインナップが献立に合わせて変更される。そのお酒の選択をする上で、アドバイスをしているのが、本日の会場でオーナーシェフを務める『polyphony』竹口店主である。加藤さんが、それだけ絶大の信頼を寄せている背景には、竹口さんのキャリアがある。

「酒徒庵」、「鎮守の森」と日本酒ファンに知られている四ツ谷の隠れ家。日本酒に精通をしており、独自の熟成酒や温度管理の徹底に長けた方である。現在はその幅を日本ワインにまで広げ、料理とお酒のペアリングを追求するスタイルを貫いている。

つまり、今日は甲殻類専門店「うぶか」の料理コースとの日本酒、および日本ワインとのマリアージュを体感するために集まったのだ。これから、ペアリングコースをお披露目される。楽しみ…!

 

虎海老真丈のお椀 木の芽

 

加藤さん:「虎海老のプリッとした繊維質を楽しむ料理です」

羅臼昆布とマグロ節でとった一番出汁のお椀から、宴は始まった。燻してからカビづけして、乾燥させてるので、雑味のない出汁が取れる一品である。マグロ節の方が上品になって濃厚になる。味噌を練りこんだ海老真丈に木の芽で季節の香りを出している。

合わせるのは、広島県 誠鏡 純米スパークリング

竹口さん:「1杯目は、必ず泡と決めているんです」。

風味があるお椀のため、サラっと流せる、お酒をチョイス。スパークリング日本酒は甘味が残ってしまうものが多いが、このアイテムは比較的甘さが控えめで爽快感が強く、料理の風味を邪魔しない特徴があった。幸先がよいスタートで、宴は始まる。

足赤海老 桃蟹のお寿司

 

東京湾で獲れた赤い足をしている海老で、クマエビの別名。

モモガニは、松葉蟹であるが、本来は脱皮して成長せるはずが脱皮せずに育った蟹を指す。そのため、小柄な蟹であるものの、味噌が濃厚で身がびっしりと締まっているそうだ。

フルタイムの会社員勤務ができず、起業をする人間もいる。
蟹にも、一般的な生き方に迷い、足並みを揃えることができずに反発するタイプもいるのかもしれない…。
妙に親近感が沸く。さっと霜降りして、あぶる。そして赤酢でシャリを焚き、寿司に。
蟹の味が濃くて、シャリに絡んでいく。最高に美味しく、盃への伸びるペースが早くなる。

 

 

合わせるは、大分県 豊潤 特別純米酒

竹口さん:「大分三井(大分で開発された酒米の品種)でつくった酒です。赤酢は酢酸が強めなので縦に伸びる酸。フレッシュな横に広がる酸を持つお酒ではぶつかってしまうので、似たような酢酸や乳酸を持つ酒をチョイスしています。酸の方向性を揃えるのがポイントです。」

素材の風味を生かして、赤酢で〆めたシャリに合うようなチョイスだった。
つまり、酸の足並みを揃えるところがポイントなのだ。うーん、奥が深いです。

イバラ蟹カルパッチョ 季節のお野菜

 

神奈川県横須賀市にある長井漁港。ここには有名な仲卸がいらっしゃる。かの有名なミシュランの名店など、彼が卸す蟹は、「世界のベストレストラン50(World’s 50 Best Restaurants)」にも選定されるような、世界中の料理人から愛されている。大変、貴重な蟹である。

季節の野菜とノンオイルのドレッシングを合わせ、イバラ蟹の内子、外子を両方を使った贅沢な料理。
蟹から、春の香りを感じた。

加藤さん:「米を炒って香りを出すことから始めます。そして、日本酒はアルコールを飛ばしてから梅を入れ、コトコト火入れして旨味を移してます。昔の醤油の代わりのような調理法にしました。」

合わせるは、長野県 十九 生酒 (19 Le cerisier rose m’apporte)。

竹口さん:「カルパッチョは、ドレッシングの酸が横に広がっていくことでバランスを保ちます。つまり、クエン酸やリンゴ酸の爽やかさを活かして、カルパッチョの風味の広がりを邪魔しないものが合わせやすいのです。また香りが重ならすぎないように、ふわっと素材の香りを引き立てることが大切です。」

なるほど…。日本酒の個性が強すぎると、甘みや風味が強い日本酒が多い中、計算されている。まるで、1歩手前で待つ奥さん、もしくは旦那さん。ジェンダーレスな世の中で、奥さんが一歩手前という発言は、怒られそうだ。でも、日本酒の場合は、料理が主役で、まだまだ亭主関白なのだろうか。

さて、このお酒は、特定名称の記述がない。先入観を持たずに味わってほしいからだそう。

2種ケーキ 松葉蟹、金平牛蒡

 

こんなケーキ、食べたことがない…。人生で最も美味しい、贅沢すぎるケーキだった。
茹でた松葉蟹を昆布出汁、寒天で固めてケーキに。
咀嚼することに蟹の芳香と旨味が舌いっぱいに広がっていく。

デコレーションされた美しいバースデーケーキのように、切るのが勿体ない!
口に運ぶ至福と無くなってしまう哀愁が交錯する。
㎏あたり15,000円以上するような蟹が約3バイ分。さすがは、祝1周年のケーキである。

ポリフォニー様、おめでとうございます。

 

 

山形県 朝日町ワイン 無濾過秘蔵ワイン 白

竹口さん:「品種は、リースリングフォルテです。もともとワインを口に含むと、ワインが後に余韻を残すことが多い。でも、食べ物よりワインが先に口から切れてくれるのが、これ。ミネラル感をやんわりと感じてほしい。」

確かに、たいへん美味しかったし、お客様からのおかわりの声も多かった。
甘みもあるが、酸がしっかりしていて、後味のキレがよくて本当に料理との相性が抜群です。

 

 

また、料理の方でも、この日限りのコラボが実現。

右に佇むは「金平ごぼうのペースト」竹口さんのレギュラーメニューだ。
「通常は、ごぼう×人参でペーストにするのですが、人参に含まれるβカロテンと蟹・海老に含まれるアスタキサンチンは同じカロテノイドの仲間なので摂取過多にならないように」とのこと。

 

タラバ蟹と自家製カラスミの炙り焼き

 

伝家の宝刀、焼き蟹。手前には、加藤さん自家製のカラスミ。ボラが出るのは短い期間で、去年の11月に仕込んでいる。タラバ蟹をシンプルに焼いていく。カラスミと蟹は、こんなに合うものなのですね。

合わせるのは、静岡県 喜久酔 特別純米。

「この料理には、正直どんな日本酒でも合いますね(笑)」

焼き蟹には、派手な香りでなければよいそうで、バランス型で、コクがあり、米の旨味が広がるものを選ぶと良いそうだ。「冷酒ですと、お酒の苦味や渋味が前面に出やすくなるので常温でサーブしました。フルーティーな生原酒だとカラスミとぶつかって、えぐみが出てしまうので加熱処理をしたお酒で合わせました。」と、竹口さん。

 

私が飲んだのは、白ワイン。北海道 さっぽろ藤野ワイナリー。

「お飲みいただいた白ワインは、カラスミに合わせるようにチョイスしています。北海道で生産されたワインは、海鮮ものと相性が良いものが多いですね。香りが強いワインですと、魚卵の風味と混ざって錆びた釘を舐めたようなえぐみになってしまいますので、比較的香りの穏やかなワインを、香りの籠りづらい口径が広く高さの低い日本酒用のグラスで提供しました。」

珍味に合わせるときは、顎を上げる背の高いグラスよりも、低いものがオススメらしい。勉強になりますね~。

車エビフライ 毛蟹クリームコロッケ

 

釧路の毛蟹を使った蟹クリームコロッケは、牛乳、小麦、バターでベシャメルソースをつくって、中から溶け出す蟹味噌を味わう絶品だ。

合わせるは、兵庫県 明石太陽  生酛  純米無濾過生原酒 

「熱燗を少し冷ましたくらいの温度帯で。燗にすると、味わいがまろやかになるし、揚げ物の温かい温度と差をなくすように近づけました。また蟹クリームコロッケのベシャメルソースとお酒をつなぎやすくするため乳酸の多い生酛造りのお酒を合わせると更にお互いを美味しく感じることができますよ。」

『うぶか』加藤さんのエビフライは、加藤さんの十八番である。先端・中・尻尾で楽しみ方が変わるオリジナリティーで溢れている。だからこそ、お酒も味わいが単調なものではなくて、複雑で、温度が変わることにより、味わいの変化を楽しめるものにしているそうだ。揚げ物の油を酸が切ってくれるので、レモンの備え付けがないときなどに日本酒は万能なsakeなようだ。

車エビフライは、「うぶか」でも定番のコース内メニューであり、尻尾まで楽しさが詰まっている料理。
海老フライというメニュー名のイメージが、覆る。
来店の度に、何度も覆って、「海老フライ」という言葉から想起されるのが、うぶかの「車海老フライ」だ。

麺料理① アスパラガスのパスタ

グリーンアスパラ、オリーブオイル、少量のニンニクでソースに仕立て、パスタに。ボイルしたホワイトアスパラガスを乗せている。次の料理が担担麺なので、塩味を少なめにしていたそう。

合わせるは、山梨県 駒園ヴィンヤード Pony シラー 2020シラーで苦み、青々しい香り。パスタの爽やかさを強調させるもためだ。

 

麺料理② テラオボタン海老の担々麺

 

テラオボタン海老の担々麺は、市場には滅多に出回らない珍しい海老だ。
通称、“長谷川さんの海老”。直で仕入れることができる加藤さんならではの「汁なし担々麺」が登場した。

元々、中華料理店でも修行を積んた経験のある加藤さんだからこその芸当。最高に美味しい〆である。
テラオボタン海老の特徴は、味が濃くて、味噌も全部おいしいこと。

合わせたお酒は、秋田県 新政の 麻猫と陽乃鳥のブレンド。
担々麺のソースの味わいにお酒を合わせることによってお酒の持つ酸の力を使い一度味わいを分解し、素材本来の味を浮き立たせ、最後に元のソースの味わいを再構築させるのが狙いだそう。亜麻猫を先にサーブし、後から陽乃鳥を高さを持って注ぎブレンドした。

酒の因数分解。飲んだ人だけが最適解を出せるのだろう。

デザート 醍醐のしずく 生姜 いちご 山椒

 

 

デザートには、「日本酒を使用したゼリーを」という加藤さんの提案に対して、竹口さんが醍醐のしずくをセレクト。
この日しか味わえないデザートが誕生した。合わせたお酒も同じく千葉県、醍醐のしずく。
瓶内二次発酵で乳酸・酢酸・クエン酸・リンゴ酸を多く含んでいるお酒だ。山椒を泡にすることにより絶妙なバランスに仕上がっていた。

編集後記

ペアリングの楽しさを改めて学んだ気がした。食事とお酒の優しい、綱引き。

拮抗する中で、相手を立たせるように動く。まるで夫婦関係の円満の秘訣だ。

お酒によって、食事を活かすも殺すも、決まってしまうだろう。

一方で、お酒は料理を引き立たせる役割を担い、なくてはならない存在でもある。

つまり、インパクトのある味わいで個性を出すことが、必ずしも正しくない。

力がある者が、勝者ではない。他方を思いやれるものが、優秀なのだ。

この、ある種の“譲り合い”に近い綱引きは、優しさに溢れていおり、

これが、マリアージュ(結婚)という言葉の所以なのではないかと、納得ができた。

甲殻類とお酒のマリアージュを学ぶ、最高の機会をいただけて、お二人の料理人に感謝を申し上げたい。

 

エモーショナルグルメライター カシューP

【Polyphony】(撮影店舗)

東京都新宿区若葉1-21-2 ベルビー四谷 1F
070-1187-8309
四ツ谷駅より徒歩10分
https://www.polyohony2021.com/

【うぶか】

東京都新宿区荒木町2-14 アイエス2ビル  1F
03-3356-7270
四谷三丁目駅から徒歩5分
https://ubuka.jp/

 

 

 

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