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公邸料理人から弁当屋に?!
世界200を超える場所に日本の大使館、総領事館があります。
そこには外交官と呼ばれる外務省から派遣されているスタッフ、現地で採用されたスタッフが働いており、そのスタッフを束ねるのが大使、総領事です。
その大使、総領事の招待客にお出しする料理を作るのが公邸料理人です。「食の外交官」とも呼ばれその会食やパーティの内容によって招待客の態度が変わる事もあります。
任期中はその招待客の中に皇族の方々、首相、大臣など多くのVIPの方々に料理を作ってきました。
公邸料理人を務めた後、ふと何をしようか考えていました。レストランを立ち上げるのもよし、カフェで働くのもよし、すし屋で働くのもよし、と思いを巡らせましたが、「これだ!」と思うものには行き着きませんでした。
そんな風に次のやりたいことを考えていた頃、ふと昼間町を歩いていると目についたのが、キッチンカーの脇で弁当を楽しそうに食べている人達でした。
仕事のお昼休憩を利用して、外で食べている人達が楽しそうに見えました。
「食で人を幸せにする」というテーマを持っている私に雷の撃たれた瞬間でした。それ以来自分も人を笑顔にする弁当を作りたいと考えるようになり、飲食店を辞め弁当事業に飛び込みました。
お弁当との出会い
弁当は、冷めても美味しいメニューを箱に入れ、蓋を開けた瞬間が楽しみで、それを見るのも、食べるのもワクワク感があって楽しいものです。
その昔学生の頃は、昼飯代を貰っていました。その昼飯代をうかすために、朝早く起きておかずとご飯を詰め、冷めるまで朝ごはんを食べて、それから学校に通っていました。それが弁当作りの原点であり、弁当を仕事としてやることになるとは、世の中何が役に立つか分かりませんね。
新しい世界に飛び込むのはワクワクするもので、チャレンジ精神があれば年齢は関係ないと強く感じました。
「未病」をテーマにした弁当事業を開始
私が携わったのは、ワーカー向けに管理栄養士監修の弁当とヘルスチェックをセット販売する事業です。
チェック項目と数値をカルテのようにして、その人に合った弁当を提供するというのが最終目標でした。ヘルスチェックに関しては、病院に行かずに体脂肪を健康的に維持する、まさに「未病」をテーマにした弁当事業でした。
試験的に店頭販売をして、お客様からは「お弁当は美味しい」と評価をいただいていたのですが、すべて手作りで始めたので弁当の1個の値段が750~1,000円の弁当になってしまいました。他のお客様からは「美味しいけどちょっと高い。」とか値段を見ただけで「高くて買えない。」という声もいただきました。
お昼に会社員がランチで利用する金額は、2019年の調査で平均555円。(前年よりも15円低い)そして調査全体の約4割は弁当を家から持参しています。(女性の場合は50%以上)付加価値をつけるために、ヘルスチェックをセットにしたのですが、そのチェックの計測時間が1人に10分くらいかかり、2人目以降その間待たなければならず、限られた昼休みにそのチェックをするのは容易ではないと気づかされました。
少しでも時短になる方法を模索しましたが、良い解決策が生まれず、1週間で利用者は数人という結果になりました。
半年ほど続けましたが、弁当の販売は天気や気温にかなり左右され当初の予想販売数を大きく下回り、そしてヘルスチェックの利用者もほとんど増えませんでした。事業として転換期を迎えることになりました。
弁当事業は糸の切れた凧のようになり、弁当事業の厳しさを痛感しました。
弁当事業で経験した苦悩
弁当業界は、薄利多売で持続している業界ですので、製造したものが100%に近い数字で売れなければ赤字になります。飲食店同様、天気や気温などにも大きく左右され、まさに水物です。
残った弁当を見る日は本当に悲しくなり、日々一喜一憂していました。
世の中でフードロス、フードウエストが叫ばれる中、自分でフードウエスト(食品のゴミ)を生み出していることに気づき、落胆しました。
そこで「フードウエストを生まない事業とは何か?」何度も会議をしながら、弁当事業者、卸業者などに食材の無駄を無くすためにどういう取り組みをしているのか、弁当のロスを生まないためにどういうところに注意しているかなど、ヒアリングを行いました。
そんな中、フードロスをテーマにしたシンポジウムに参加した時に色々な企業の取り組みを改めて知り、今世界で注目されているスタイル、ゴーストレストラン事業を知りました。
次回は、ゴーストレストランについて詳しくお話しします。