【ソンユガンのブドウ栽培】サステナブルなブドウ栽培その3〜「農薬」について〜

【ソンユガンのブドウ栽培】サステナブルなブドウ栽培その3〜「農薬」について〜

世界のブドウ栽培現場では、現実的に大量の化学農薬および化学物質が使用されている。

(世界には稀にそういった化学物質をあまり必要としない恵まれた環境もあれば、人の努力によって最小限の使用もしくは無使用に抑えている場合もあるが)

 

グラスに注がれる美しい液体とは裏腹な世界。

世界で厳しさを増す気候変動による自然災害。

人間にとって嗜好品であるワインを生産するために、自然に負荷をかけてまでそれをする必要性とは?

私たちは「持続可能な農業およびブドウ栽培」について今一度考えるべきである。

 

ブドウ栽培における主な環境負荷

  • 農薬
  • 化学肥料
  • 資源(水)

 

今回の記事は、この3つの中でも特に「農薬」について考えたい。

 

 

農薬

「農薬」とは、農作物を害する病虫害・雑草を防除し農業生産環境を整える事、ならびに農作物の生育を調整するために使用される「農業用薬剤」の略称であり、日本では農業取締法において提示された様々な基準に合格し、政府によって登録が認められたものが「農薬」として使用することが可能である。

「農薬」は、標的生物によって「殺虫剤」「殺菌剤」「除草剤」「植物成長調整材」などに分類され、防除効果は使用される有効成分によって発現する。

そもそも「農薬」は、病虫害や雑草による生産物の量的/質的低下を防ぎ、農作物の適期外栽培を可能にし、重労働からの解放、ならびに労働時間の軽減など様々なメリットを求めて使用する農業資材である。

戦後の農業は、こうした効力を持った農薬の使用を前提として、色々な栽培技術が構築され、農薬利用によって病虫害・雑草防除が容易になるに伴い、栽培様式が大きく転換し、生産量の増加や農産物の品質向上などにより、国民の食糧事情を大きく改善したと言われている。

しかし一方で「農薬」の使用は、人間をはじめとした非標的生物に対する毒性や食品・環境における農薬残留を発生させ、大きな社会問題ともなった。

そうした状況から、近年は農薬を使用しない栽培も実施されているが、農薬を使用しない農業における生産量は、「農薬」や化学肥料などを利用した一般的な農業形態である慣行農業よりも少ない場合がほとんどで、さらに炎天下での雑草防除作業(草取り)は極めて過酷で長時間を必要とする。

「農薬」の使用は、農業生産の向上や農民の重労働からの解放などにも貢献したとも言えるが、しかし、残留毒性の発生や、環境に与える汚染などから、その使用に関しての功罪も問われている。

 

 

農薬の歴史

 

害虫や植物病原菌を防除するために、戦前までは、鯨油、石灰などが利用されていたが、その後、除虫菊、ヒ酸鉛やボルドー液などの天然物や無機化合物が農薬として利用されてきた。

戦後は、欧米から輸入したDDT、パラチオンや2.4-Dなど、多くの有機合成農薬が利用され、その後、国産の有機合成農薬も開発・実用化され、時代とともに多数の有機合成農薬が利用され、病害虫・雑草の防除効果が飛躍的に高まり、農業生産性は著しく向上した。

しかし、農薬による人体毒性や野生の動植物における残留毒性などが次々と判明し、その使用に伴うリスクが国際的な問題として指摘され、低毒性で残留性の無い農薬が求められるようになった。

こうした状況を背景として1971年に「農薬取締法」が改正され、危険農薬の使用禁止、登録失効、規制措置や農薬登録審査基準の厳格化などが行われ、より低毒性で残留期間の短い、且つ高い防除効果を持つ化学農薬が開発されるようになってきている。

 

 

農薬被害

戦後に登場し注目されたた有機合成農薬(DDT、BHC、ドリン剤、パラチオン、水銀粉剤、PCPなど)ではあったが、哺乳動物や人畜に対する高い急性毒性や魚毒、稲作使用によって起きた「水俣病」公害、水質汚染による魚介類被害など大きな社会問題、政治問題となった。

 

その後、国産のより安全な低毒性農薬が次々と開発されてはいるが、ミツバチ大量死の要因となった「ネオニコチノイド系殺虫剤」や、発がん性リスクが疑われる「除草剤成分グリホサート」のように、低毒性農薬と言いながら近年になってその毒性が明らかになるという事例も多く出てきている。

 

 

残留農薬

 

農薬は、農産物の生産や保管・輸送において、ヒトや動物等の非標的生物には毒性作用を発現する事なく病害虫・雑草等の標的生物を防除することを前提として使用されているが、しかし、現実には、非標的生物にも毒性作用を発現してしまうことがあり、それが大きな社会問題として世界的な問題となっている。

農薬を使用する際、その使用範囲は局部的ではなく、標的生物が生存する農耕地等の広範囲・環境中に散布する事が多い。その為、実際の標的である生物への直接的な付着・吸収は極一部であり、標的以外の非標的生物への付着・吸収が起き、最終的にそのほとんどが土壌へ到達してしまう。しかもその一部は地下水として河川へ流亡し、環境汚染の原因となる。

環境中に放出された農薬の大部分は、環境中に存在し、残留量が多いものや残留期間が長いものが、食品中や環境中に残留し毒性を発現してしまうリスクがあり、事実、世界中で生産されている多くのワインで、農薬の残留が確認されている。

また、鳥類や動物などは直接農薬に触れなくとも、農薬を含む作物などを餌として

体内に取り込んでしまう場合もあり、さらに農薬が残留する昆虫や小動物などを餌とする場合には、食物連鎖を通して生物濃縮が発生する事もあると言われている。

このように、農薬の食品残留や環境残留は、食品汚染、環境汚染として、人や生物生態系へ影響を与える可能性があるのである。

 

 

日本のブドウ栽培で使用される農薬

日本のブドウ栽培では、殺菌剤、殺虫剤、除草剤が多く使用されている。

湿潤な気候で発生するカビ系の病気(ベト病、灰色カビ病、晩腐病など)への対処として大量に使用される殺菌剤、萌芽から結実までブドウの葉から実まで食害を与える害虫に対する殺虫剤、雨量が多く肥沃な土壌で旺盛に伸びる雑草除去としての除草剤。

世界でも有数の農薬大国である日本だが、この恵まれた土地であるがゆえにこの国に存在する生物も多様であり、農業というフィールドに置いて敵が増えてしまうのも致し方ない事である。

遥か遠い昔から病虫害と苦闘して来た日本の農業。農薬の発展でその問題を解決して来た一面もあるが、しかし、標的以外の生物、土壌や環境などへ悪影響を与えてしまうというのも事実。

やはり農薬の使用について今一度考える必要がある。

 

 

減農薬、有機栽培、生物農薬

 

農薬使用に関連した様々な問題が発生したことから、出来る限り農薬使用を少なくする農業が注目され、農薬を全く使用しない「無農薬栽培」、使用を少なくする「減農薬栽培」が実施されるようになった。そして前者については、その後「有機栽培」として認識され、こうした農業形態は、農薬使用によるリスクをなくす、もしくは少なくすることで、より安全な農作物の生産を目指して実施されている。

農薬に関しても、1970年代、化学農薬の食品残留や環境汚染が問題となったことから、天敵などの「生物農薬」の利用が期待され始め、徐々にその使用がされ始めた。

害虫対策としての蜂、てんとう虫、ダニ、カメムシ、バクテリア、さらにそれ以外にもフェロモン剤や植物から抽出した成分、アレロパシーなどの利用が行われている。

しかし、日本における有機栽培の割合(日本の耕地面積における有機栽培の畑の割合)は、現状わずか約0.2%しかない。

生産量の減少、労働力の増加、そして有機農業の難易度の高さなど、日本で農薬の使用を減らして農業を行うことは決して簡単なことではない。

 

では一体どうやって農薬の使用をやめる(減らす)ことが出来るのだろうか?

 

私の答えは

「その土地に合った病気に強い品種(作物)を育てること」である。

 

「農薬は悪、使用するべきではない」と否定するのではなく、「出来るだけ農薬を使用しないためにはどうするべきか」を考えることの方が重要であると私は考える。

 

 

次回、日本のブドウ栽培における「品種選定」の重要さを、歴史を振り返りながら考察していく。

 

参考図書(「社会」の中の農薬:小林勝一郎)

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