シェアリングエコノミーの用語に「メッシュ」という言葉がある。これはオフォト(写真共有サービス。後コダックに買収)を創業したエンジェル投資家のリサ・ガンスキーが著書で提示した概念だ。
サッカーボールを持ち歩く際に使う網がメッシュ。人々とインターネットを通じて繋がることで、どのようなコトが生じるかを述べた文章を指す。人、モノが繋がる社会で企業がいかに生き残るかという視点で論じられている。
メッシュの特徴は、下記である。
1.シェアする
2.webとモバイル情報ネットワークを駆使する
3.有形物や具体的なサービスを扱う
4.顧客との接点がSNS上にある
という点。これらをすべて備えたものは「フルメッシュ」と呼ばれる。2021年の外食産業は、大変苦境の中で、デジタルと遠いビジネスモデルにいるかもしれない。
しかし、メッシュビジネスは、従来の製造したら終了ではなくて、戦略の中核は顧客のリピーター確保にある。顧客と継続的に関わることで得られるフィードバックをもとにサービスを改善して、ブランドを強化して売上をあげていく。
つまり、レストランの味・サービス・コンテンツで正統なファンをつくっていく飲食のブランディング方法には向いているのではないか。いつだって、お客様とコミュニケーションを欠かさない工夫をしているのが、レストランであるからだ。
テイクアウトもよいが、本当の醍醐味は、レストランに足を運ぶことである。
時間短縮であるが、シェフと会いにいく気持ちで、こんなときだから足を運びたい。
そんな飲食店を運営する方々に尊敬の念を込めて、お酒が飲めなくても訪れたい2店を紹介する。
目次
お薦めの店(1) 『~時々~すずきの』(本郷三丁目)
2020年7月に訪れた際の、「~時々~すずきの」 お任せコースを撮影したもので、メニューの一部をご紹介するので参考にしてほしい。
●夏野菜のゼリーがけ
バイ貝、つるむらさき、じゅんさい、ミニトマトを土佐酢ジュレで冷菜に。この日の炎天下に染みる、夏らしさ。じゅんさいも最後の旬の終わり。秋田県のじゅんさいに、茨城のつるむらさきとバイ貝が舌を涼しげに纏う。ミニトマトは…本郷三丁目産。つまり、自家栽培だそう。いいね、その言い方(笑)
●炙りカマスの棒寿司
寝かせが上手なカマスにワサビ醤油が塗られた1品。味がついているから醤油はいらない。そのまま1バイトで。
●トウモロコシのビール衣上げ
「え、ビール?」と聞き間違えたのかと思ったけど、やはりビール。夏の季語になりそうなビールで玉蜀黍を揚げる。カレーでお肉をビールで煮込むのは有名だけど、揚げ物でビールって、初耳だ。サクサクになるそうで、目から鱗であった。カレー塩がアクセントに、これまたスパイシーな夏の風物詩を、これほどまでに素敵に演出している。
お造りの盛り合わせ
船橋で“旬締め”された魚が御開帳する。鱸、太刀魚の炙り、〆サバ。名脇役プレーヤーがこの、【胡瓜】だ。この胡瓜は一味も二味も違う。胡瓜とは品種の配合をすることが一般的である。「他家受粉性」の虫媒花をする野菜なので、異品種と交雑して、絶えまなく遺伝子が変化する特徴があるからだ。つまり、単一の遺伝子では、歴史的な変遷をたどるのが非常に困難な弱い野菜なのである。しかし、この胡瓜は、胡瓜のみで育てられている。
失恋したての女子高生のハートのようなデリケートな胡瓜をお造りが優しく包む。
鮎の焼き浸し
頭までホロホロに溶けて骨まで柔らかい鮎が梅がゆの敷き布団の上に置かれる。川魚の美味しさを改めて感じる一品。鮎は、たいてい重湯と合わせることが多いが、そこに梅がゆにすることでスッキリ食べやすく。夏のカラダが求めているクエン酸が、程よく鮎の苦味を滑らかに溶かす。素敵な料理でした。
盛り付けられた器は、茨城県の“笠間焼”。笠間焼(かさまやき)は、茨城県笠間市周辺を産地とする陶器だ。江戸時代中期の安永年間(1770年代)から作られ始めた笠間焼は、笠間粘土によって作られる。
笠間粘土は、笠間地区から筑波山にかけて産出する花崗岩(御影石)が風化堆積して生じた粘土であり、粘りが強く成形がしやすい。このまばらな色彩は、土に鉄を含むためだ。焼成後には、独特の有色となる。
上は、穂高隆児氏の作品である。(笠間粘土だけでなく多種多様な素材を使う)穂高隆児さんは、17年くらい料理人をされていて陶芸家に転身したからこそ、料理人の使い勝手やシーンを想定したクリエイティブができると伺った。おうちごはんのシーンでもこうした食器のペアリングも醍醐味の1つかもしれない。
本州鹿の白味噌仕立て
宮城県の猟師、小野寺さんのジビエを直仕入れ。
処理スピードが早く、臭みはなくて、鹿の上質なたんぱく質が、私の筋肉と同化していくよう。茗荷がアクセント。鹿肉は粉を打って、じぶ煮のようなテイストで京都イシノの白味噌が包む。
アラ出汁と白味噌でコクがあるけど、優しい。
散りばめられた青柚子の皮が剛健な獣肉を使っているとは思えないくらい爽やかに醸す。味噌と相性抜群の白なすと加茂なすが素揚げされて、食べ比べも楽しい逸品。
雲丹の炊き込みごはん
伝家の宝刀、当店のスペシャリテ。岩手県の工芸品である南部鉄器を用いてオーガニック栽培の宮城県ササニシキを炊く。この米は、「お米クリエーター」の佐藤さんのもの。雲丹の量が素敵。飾りでなくて、雲丹が主役。
喧騒が外れた場所で、穏やかな時間が流れる中で、ワクワクが止まらない。鈴木料理長の夕食の献立は「おまかせ」だから、予想がつかず興味津々。カウンター越しに店主と会話を通じて、新しい経験も料理と一緒に頂ける。そんな店です。この日は、気づけば17:30から撮影に入って、帰るの22:00だった。お願いだから、戻ってきて…そういう夜が恋しい。
すずきの
東京都文京区本郷5丁目25-11
03-5615-9687
https://tabelog.com/tokyo/A1310/A131004/13237407/
お薦めの店(2)『ビストロシロ』(広尾)
※2020年9月1日~の「おまかせコース(10,000円)」を撮影したもので、メニューの一部をご紹介するので参考にしてほしい。
兵庫県産香住蟹とホワイトバルサミコでマリネしたMOZUKU酢
沖縄県の太もずくと兵庫県・香住蟹(紅ズワイガニ)を合わせてトマトのジュレが絨毯に、夏の足をそっと休めるようなスターター。魚介ビストロの名にふさわしい先見性が流石である。ホワイトバルサミコビネガーがアクセントで、酸味と甘みが計算されている。
北海道産 生雲丹とセロリラーヴのムース コンソメジュレと共に
神経〆鮮魚のカルパッチョ 舟形マッシュルームのサラダ
カルパッチョに使う鮮魚は、仕入れで変わるが、今夜は北海道産の鮃(ヒラメ)。
柚子でマリネした鮃に塩・オリーブオイルでシンプルに。
爽やかな魚に業界では超有名な舟形マッシュルームで、グルタミン酸をプラス。
鮑と肝タプナード和え 茗荷 有馬山椒 マイクロ花椒 / キャビア素麺
鮑の肝とタップナード。鮑をバターで焦がす寸前までソテーして、白ワインで留める。肝を贅沢に使い、タップナードに有馬山椒で、後味に「和」テイストが脳まで香ってくる。ブラックオリーブ、ケッパー、アンチョビが定番構成のタップナードが、見事なまでに鮑と融合している。
続いて、お口直しに素麺。素麺にキャビアが斬新で、簡素な料理と思いきや、家庭では真似しづらいレベルの高い素麺だった。和出汁とイワシの魚醤を隠し味して、少量のつゆがオリーブオイルと重なり、ユニークで愉しい。この日は、特別にペアリングとは別に「白瀧」の純米吟醸だった。早く店でお酒とフレンチで楽しみたいものです。
梅肉を挟んだ兵庫県 淡路産ハモカツ マディラソース
季語は夏でも、鱧は秋に二度おいしい魚である。江戸時代以前、京の都だったとき、内陸で海から遠かった京都で、夏に生で流通できる魚が鱧だけだったからという説があるが、関西では松茸と合わせて土瓶蒸しにする魚が、鱧。つまり、実は、本当に身がおいしくなる時期は秋だったりもする。徳島の知り合いの鱧業者が言うには、秋の鱧は“金鱧”と呼ばれ、魚に脂がのり、お腹の部分が、シャンパンゴールドのように光沢が出てきるそうだ。
今回の鱧は、体長1.5kgほどの巨大な鱧。本社が神戸にあり、ネットワークを駆使して漁港から直接仕入れられるのが「ビストロシロ」の強みだ。活〆された鱧にパン粉をふって、ハモカツにする。フォンドヴォーとマデラ酒を煮詰めただけの甘いコクのある洋風のマデラソースの甘味と、挟まれた梅肉の酸味のバランスがとても素晴らしい。
シロ特製!オマール海老のブイヤベース
魚介は日替わりで、今宵はオマール海老、オナガダイ、ハマグリ、白貝、沖しじみ。海老・ワタリ蟹をミクロ粉末になるまで炒めて、魚のアラや魚介のあらゆる部位を凝縮してブイヨンをつくる。「隠し味は、魚の骨ですかね。」と斉藤シェフ。210℃、40分くらい煎餅のようにローストして薫りを出して、野菜と一緒に煮込んでいるそうだ。
スープを煮込むこと3時間、ブイヤベースを口に入れた初めての私の感想は「スープドポワソンみたい」だった。斉藤シェフに翌日に再度取材をすると「ブイヤベースとスープドポワソンの中間を狙っているんです」とのこと。
塩を一切振らずに、この貝の塩味からミネラルが醸し出されて、恐れ入った。魚介の旨味が凝縮というと、安易な言葉で微妙なのだが、魚介を専門とする「ビストロシロ」の真髄が見える料理だ。
ビストロ シロ
050-5592-6470
東京都渋谷区広尾3-2-13 岡野ビル 1F
http://www.bistro-shiro.com/bistroshiro/
編集後記
ご馳走様でした!!
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※料理コース単価10,000円~の飲食店のみ、取材を承ります。
(本記事は『おうちごはん研究所』のリニューアルに伴う転載記事です。)